2008年07月23日

「父と暮せば」静かに戦争の無意味さを語ってくれました。

恥ずかしながら。。。。
もうすぐ誕生日なのですが、先日そんなことも忘れて
玄関で古新聞をめいっぱいひろげてたくさんの靴を
並べて汗だくになって磨いておりましたら、
娘に「ママは何がいま欲しいの?」と聞かれました。

ピンとくれば、カルティエのベニュアールといいたいところ
なのに、
(>そんな高価なもの、娘に言ってどーする?)笑

ホントにホントにお腹から思ってたのでしょうね。。。
「ママはもういちど、あなたの赤ちゃん時代の時間が欲しいわ」

あの、マシュマロみたいに甘くてふわふわの赤ちゃん。
それが、体中の力をふりしぼってするウンチの様子とか(笑)
私の体の中にすっぽりと包んで小さな息吹を感じる幸せ。
私だけをみつめて、微笑む無垢で私だけのベビー。

あの瞬間の喜びは何ものにも換えがたい至福の瞬間。

「ふーん。そっかー。ママの年令じゃあ、出産はムリだもんね。あはは」
そんな小さな宝物だったあなたが私のことを心配してくれる。ママはゲンキで
笑顔で青春を生きている様子だけで幸せと思う瞬間なんですよ。。。
おとったんの原田芳雄さんが静かに全て語ってくれていました。

DVDで黒土和雄監督の遺作「父と暮せば」を観ました。
父と暮せば.jpg
あのピカがあって数年後の広島に一人生き残り孤独に暮らす
心優しい娘、美津江は図書館に勤めひっそりと暮らしています。
爆風と焼失でほとんど廃墟となった家に、あの原爆で亡くなった
父が現れ、一緒に暮らしていきます。
父は、娘が図書館で出会った原爆資料を集める学者にときめいた心と
恋焦がれるため息で生れたまぼろしの存在だそうです。
しかし、娘は自分だけが生き残った罪悪感と恐怖、これからの明日へも
希望が持てず、私は幸せになってはいけない人間と決め付け、一切の
心を閉ざしてしまい、幽霊の父と暮らすのでした。
父は必死に励まし、恋を応援し、明日に生きることを強く説得し
娘がこれから生きて残していかなくてはならない使命を強く説いて
いきます。
娘のかたくなな心、そして戦争への恐怖、憎しみはほぐれていくの
でしょうか。。。

娘を宮沢りえさん、幽霊の父を原田芳雄さん、美津江さんが恋する
学者に浅野忠信さんです。
オール二人芝居で、原作・井上ひさしさんのこまつ座の舞台そのままで
二人のセリフと時折表現される、原爆瓦やガラスの破片の小道具が
具体的にあらわされることのない原爆の恐ろしさと広島の人々の地獄の
苦しみが表現されます。
原爆投下後、生き残った人達は誰しもきっとこんな苦しい思いを抱いて
生きておられたんだと思うと、胸が熱くなりました。

りえさんのたおやかで、父の前では気丈に明るく振舞い饅頭をほおばる
表情に癒されます。りえさんが微笑めば微笑むほど奥底の悲しみの深さが
あふれてきそうになりながら。。。
父の原田さんは、時にはおどけ、時には厳しく叱咤し娘を励まします。
自分が一緒に麦湯を飲めなくても、娘が台所に立てば一緒にたって
雑魚味噌を作ります。その特製の雑魚味噌を愛する人へもっていきなさいと
背中を押します。父のあふれるばかりの愛情が具現化されていて
こちらもこの切なさに胸をつまらせます。
りえさんも原田さんも芝居くさくなくて本当の父親と娘が語り合ってる
ようで自然で素晴らしいです。
大切な友人も先生も、家族も全てあのピカで失くしてしまった。
私はなんで生きているんだろう。
私よりも生きなきゃいけない人がいっぱいいるのに、どうして私は死ね
なかったんだろう。
「私は生きてはいけなかった。」
あのピカで亡くなった人もむごたらしく悲しい。
が、生き残った人もどれだけ苦しく自分を責め、吐くように耐えなければ
ならなかったか・・・。
20040618001fl00001viewrsz150x.jpg
戦争が、ほんの数十年前にこの国にあって、今や世の中の苛立ちや
人の優劣や格差で簡単に虫けらのように殺されたり、自らの命を
絶ってしまうこの時代。
いのちをつむいで、この戦争の悲惨さや人の尊厳を伝えて生き抜いて
きた美津江さんは、幽霊のお父さんはどう見ているのだろう。

父娘がジャンケンポンをして、父がいつも負けるグーを
出すところで、大泣きしてしまいました。
黒土監督は、ズームを多用せず、カメラを平行に動かし
娘の視線の高さに忠実に(宮沢りえのたおやかな美しさだけも忠実)
淡々と撮っていました。
二人の芝居の力だけが命綱の映画でした。
空を見上げると、原爆ドームがあってそこにつきぬける青空が
ありました。

父が暗闇に消えていって美津江さんが最後に言います。
「おとったん、ありがとありました。」
美津江さん、好きな人に思い切り飛び込んでくださいね。

★映画のツボ〜ちょっとネタばれ
・頑固すぎる頑なな美津江さんに、どこまでぐずぐず言うてんの!と
 ちょっとイライラしそうになりますが、りえさんのこの上ない悲しみと苦しみを
 背負った演技に、負けます。
・浅野さんは少ししか出てきませんが、原爆資料を集める誠実さあふれる
 青年を印象深く演じています。黒土監督の作品への思い入れを感じました。
・原爆瓦は、画面からみても怖かった。。。
 放射熱で溶け、おろしがねのようにささくれ立った凶器に変身した瓦。
 これが広島の家屋や人に爆風と共につきささったそうです。
・りえさんがささがきごぼうを作るシーン、にんじんを千切りするシーン
 とっても自然で優しいのです。普段からキッチンに立っておられるのでしょうね。
・音楽がちょっと怖いのです。
 黒土ワールドなんでしょうが、子供にも見せたい映画なのに音楽がオカルトっぽい。
 エンドロールもさらに怖い。美しく装う必要もないけど、たくさんの人に見て
 もらいたいのなら、音楽はもう少しアカデミックなほうがいいなと思いました。
 例えば筒井ともみさんとかね♪
posted by mint2 at 21:44| 兵庫 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画&ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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